賃貸経営は長期にわたる事業ゆえ、いつか必ず「運用へのテコ入れ」が必要な時期がやってきます。借主からの解約連絡は、実はそんな「テコ入れ=次の一手」を検討する絶好のタイミング。物件をどのように運用していくのか、選択肢は大きく分けて4つあります。
解約連絡を受けてまず考えたいのは「そのまま貸すか、バリューアップして貸すか」の選択です。経営者としては、ハウスクリーニングや簡単な原状回復工事だけで安価に済ませたい・・・と考えがちですが、そのまま貸す場合は家賃減額や数ヶ月の空室損が発生するリスクもあり、一概にバリューアップ工事をしないことが「安上がり」とは言えません。特に、10年を超える長期入居だった部屋は、設備が陳腐化して現代のニーズにマッチしなくなっている可能性大のため要注意。新製品の導入や入れ替えを前向きに検討しましょう。
【10年入居後の設備確認】
・温水洗浄便座…今ではあって当然の人気設備ですが、2010年時点の世帯普及率は7割程度。未設置であれば是非検討を。安価かつ即日設置も可能なお手軽対策です。
・インターネット無料…現在は鉄板の対策であるネット無料も、10年前はまだまだマイナーな施策でした。無料化が難しい場合、せめて高速回線を使用できる環境の整備を。
・エアコン・給湯器…10年以上稼働する設備ながら、10年でメーカーの修理部品の供給は終了します。次の入居者が気持ちよく住めるよう、先手をうって退去タイミングで交換しておくのも手。
設備の入れ替えだけでは訴求力の回復が難しいという場合は、内装や間取りの刷新まで含めた「リノベーション」を検討することになるでしょう。和室を洋室へと変更したり、2DKを1LDKへと変更する等の施策はもちろん、内窓を追加して断熱性・防音性を高めるなど、部屋の性能向上に取り組むのも集客・長期入居促進に有効です。
バリューアップもリノベーションも、費用を抑えたい場合は原状回復工事にタイミングを合わせ、「一度で」「内見者が入居を即決するくらい徹底的に」改装するのがコツ。できれば解約連絡の前から検討を始め、解約連絡を実施の是非を決断する機会としましょう。相場は建物構造・面積によって異なりますが、壁・床・建具等の表層刷新は平米3~5万円程度から、水まわりまで手を入れる場合は平米8~10万円程度からが目安です。
立地などの条件次第では、「居住用」の考えに縛られず周辺のニーズに合った運用方法に変更するという選択肢もあります。例えば、大胆なリノベーションをしてレンタルスペースとして時間貸ししたり、入居者専用の共用スペースにして建物全体の価値をアップしたり。コロナ禍明けで急回復しているインバウンド需要をターゲットに、「民泊」に挑戦してみるのも面白いでしょう。
もし物件が戸建てや分譲マンションなら、解約連絡は「売却」を検討できるタイミングでもあります。アパート等の一棟モノは“満室”で売りに出すほうが有利と言われますが、戸建て・分譲一室の場合は“空室”で売りに出すことで、投資用だけでなく実需(=居住用)での買いが見込めます。
また、空室での売却は、自社で取得した物件にリノベーションを施して販売する「買取再販業者」の購入も期待できます。リノベーションすることが前提の業者にとっては、入居中よりもすぐに工事ができる“空室”のほうが都合が良いのです。ピンチになりがちな解約連絡が、思わぬキャピタルゲインにつながる可能性も。経営者としては、貴重なチャンスを見逃さず広い視野で最良の選択をしたいものですね。
(この記事はLIVING Plus!2024年5月号に掲載されました。)