近い将来、高い確率で発生が予想されている大規模地震。被害を最小限にするために、できる限りの備えをしておくことが大切です。住宅の耐震化は、地震から命と財産を守るための備えとして有効な防災対策のひとつです。耐震診断でお住まいの家の耐震性能を確認し、もし耐震性が不十分な場合には耐震補強や耐震改修を検討しましょう。
耐震改修で大規模地震に備える1981年の「新耐震基準」がひとつの目安
近い将来、発生が切迫しているとされる大規模地震は、おもに「南海トラフ地震」「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震」「首都直下地震」「中部圏・近畿圏直下地震」などがあります。中でも、南海トラフ地震と首都直下地震は今後30年以内に発生する確率が70%と高い数字で予想されており、被害想定は甚大で、人的被害はもちろんのこと、建物被害は相当数にのぼるとの指摘がされています。住宅全壊戸数は、12万戸以上の被害があった東日本大震災と比べ、南海トラフ地震は約20倍、首都直下地震は約5倍にもなることが想定されています(2013年時点の想定)。しかし、2016年に発生した熊本地震については、30年以内の発生確率は1%未満という予想がされていました。大規模地震は、発生する可能性が高いと予想されているエリアだけではなく、どこでも起こるものと考えておかなければなりません。
地震による建物被害は、震度が大きくなるほど、耐震性が低い建物ではその被害は大きくなります。木造建物の場合、震度5弱以上で、壁などのひび割れや亀裂がみられるようになり、震度6弱以上になると、傾いたり倒れたりするおそれがあります。また、鉄筋コンクリート造建物の場合、震度5強以上で、壁、梁、柱などに斜めやX状のひび割れや亀裂がみられるようになり、震度6強以上では、1階あるいは中間階の柱が崩れて倒れるおそれがあります。(これらの被害状況は、近年発生した地震による事例に基づいて想定されています。地震動の振幅や周期、継続時間などの違い、対象となる建物や構造物の状態、地盤の状況により被害は異なります。)
1981年(昭和56年)6月より建築基準法の耐震基準が強化されています。しかし、この年の5月以前に建築確認を受けて建築された建物の中には、いわゆる「旧耐震基準」によって建築され、耐震性が不十分なものが多く存在します。2018年の統計調査では、全国の住宅総数約5,360万戸のうち、約700万戸において耐震性が不十分であると推計されています。
お住まいの建物が、1981年6月以降の「新耐震基準」で建築されているかどうかが建物の強さを知るひとつの目安ですが、この年以降の建築であっても、建物は経年変化するため全く壊れないということではありません。地震に備えて建物を日頃からメンテナンスしておくことが大切です。
大地震から自らの生命・財産を守るためにも、お住まいの家の耐震化は平時からの備えとして有効な防災対策のひとつです。まずは、耐震診断を受けて建築年度と建物の耐震性を確認し、もし耐震性が不十分であった場合は、耐震補強・改修工事を検討しましょう。
■耐震診断と改修工事の費用は?
1981年6月より導入された新耐震基準とは、建物が「震度5強程度の地震でほとんど損傷しないこと」「阪神・淡路大震災クラスの震度6強〜7に達する程度の地震で倒壊・崩壊しないこと」を建築基準法で定めたものです。
住宅の耐震診断では、「1981年より前の建築なのか」「立地による耐震性」など、建築士や専門家が建物の耐震性を総合的に評価し、耐震改修工事の必要があるかを判定します。診断の結果、基準を満たしていない場合や、耐震性が不十分であった場合、耐震補強・改修工事を検討しましょう。多くの自治体では、耐震診断を行う会社の紹介をしているので、お住まいの市区町村の防災担当課や住宅建築課などに問い合わせてみましょう。
■耐震補強・改修工事の内容は?
木造住宅の場合、「基礎の補強」「地震に強い壁をバランスよく増やす」「柱・土台・梁・筋かいの接合部分に金物を使用する」「腐食やシロアリ被害のある部分を取り替える」などの工法で改修を行います。また、家全体ではなく、寝室やリビングなどの一部だけにすることで、費用も低く抑えられる「簡易耐震改修」もあります。
■費用と助成金などの補助は?
耐震診断費用が10〜20万円、耐震改修費用は工事内容にもよりますが、おおむね150万円程度です。耐震改修は決して小さくない費用負担が必要になりますが、多くの自治体では、耐震診断や耐震改修工事の費用の助成などをしています。国や地方公共団体による「助成」「税制」「融資」の3つの支援制度を活用しましょう。住宅の耐震化に関する補助のほか、所得税と固定資産税の特例措置、住宅ローン減税、住宅金融支援機構の融資などがあります。助成を受ける条件や内容は、自治体ごとに違うので、詳しくはお住まいの市区町村の窓口に問い合わせください。
また、悪質なリフォーム工事詐欺にも気を付けましょう。業者のほうから「国土交通省の依頼を受けて耐震診断を行っている」「住宅の耐震改修が耐震改修促進法によって義務付けられている」などと言われた場合は、お住まいの市区町村の窓口に相談しましょう。
耐震性が十分な建物でも、発災時には火災などの被害を受ける可能性はゼロではありません。被災した場合、住宅の再建や補修に加え、その後の生活の再建にも資金が必要となります。地震保険の加入など、経済的な面においても備えておくことが大切です。
■リスクケアには、注意が大切
近い将来、発生が予想されている大規模地震の被害を最小限にするために、住宅の耐震化は、地震から命と財産を守るための備えとして有効な防災対策のひとつです。お住まいの家の耐震性が不十分な場合には、耐震補強や耐震改修を検討しましょう。しかし、大規模地震ともなると住宅被害は防ぎきれないかもしれません。万が一の「備え」もこの機会に見直してみてはいかがでしょうか。